生活保護制度の基本原理
生活保護制度の基本原理とは、制度の目的、無差別平等の原理、健康で文化的な最低生活保障の原理、保護の補足性の原理として、生活保護法第1条から第4条にわたって規定された制度の基本となる考え方のことである。これは、同法第5条に、この法律の解釈及び運用はすべてこの原理に基づいてされなければならないと規定されている。「国家責任による最低限度の生活保障」と「自立の助長」がこの法律の目的であり前者は「国家責任の原理」と言われる。
これら4か条に規定された原理の意義は、憲法に規定された生存権の具体化にふさわしい最低限度の生活の保障のために、これらの原理に従って制度が実施されるように定められたものである。また個々具体的な保護の開始・変更・停廃止・却下等の決定あるいは法の運用がこの原理に違反しているとされた場合はそれらの措置が無効となりあるいは違法性を帯びることとなるものである。
生活保護法には、法の各規定に多くの例外規定がおかれている。一定の原則を示した後、「ただしこれによりがたいとき」及び「保護の目的達成に必要な場合」等に、その既定の方針にかかわらず別の方法を選択する余地を残しているのである。
「補足性の」原理においても例外ではなく、急迫した事由がある場合には、資産・能力の活用、扶養・他法等の優先という原理にかかわらず、必要な保護を行うことを妨げるものではないと定めている。
これは、要保護者が急迫している場合、つまり困窮のため生命の危険があるほどに状況が逼迫しているような場合には、例えば資産の活用を要件とするとしても調査が完了するまで保護を実施しないことは、かえって保護の目的に反することとなるので、必要な保護の先行実施を行ってもよいということである。
本法は、このように実態に合わせ、保護の目的を達成するために法の規定に忠実となるあまり本末転倒とならないように例外規定を定めている。
問い
1.生活保護制度の基本原理とは何か。WHAT1
2.保護の目的及び国家責任の原理とは何か。WHAT2
3.無差別平等の原理とは何か。WHAT3
4.健康で文化的な最低生活保障の原理とは何か。WHAT4
5.保護の補足性の原理とは何か。WHAT5
6.保護の補足性の原理において資産の活用はどのように規定されているか。HOW1
7.保護の補足性の原理において能力の活用はどのように規定されているか。HOW2
8.保護の補足性の原理において扶養の優先についてはどのように規定されているか。HOW3
9.保護の補足性の原理において他の法律による扶助の優先についてはどのように規定されているか。HOW4
10. 保護の補足性の原理適用に関し、急迫した状況にある場合等についてどのように規定されているか。HOW5
答え
1.生活保護制度の基本原理とは何か。WHAT1
生活保護制度の基本原理とは、生活保護法第1条から第4条にわたって規定された制度の基本となる考え方のことである。その内容は、制度の目的、無差別平等の原理、健康で文化的な最低生活保障の原理、保護の補足性の原理であり、同法第5条にこの法律の解釈及び運用はすべてこの原理に基づいてされなければならないと規定されている。生活保護制度の目的については、課題番号3-1-1を参照のこと。
2.保護の目的及び国家責任の原理とは何か。WHAT2
保護の目的については、3-1-1で解説されている。国家責任の原理とは、この目的実現について国家がその責任を負うということを宣言していること、また実施体制上も法的にも国家が責任を負うということである。
3.無差別平等の原理とは何か。WHAT3
すべて国民は、この法律の要件を満たす限り、この法律による保護を無差別平等に受給できると規定された原理である。この法律の適用に関し、生活困窮者の信条、性別、社会的身分等により優先的または差別的取り扱いを行うことを否定するとともに、生活困窮に陥った原因による差別を否定し、生活に困窮しているかどうかという経済状態に着目して保護が実施されることを意味している。
またこの原理は、国民が国家に対して積極的に生活保護法による保護を実施すべきことを主張することのできる保護請求権の存在を承認したものである。
また、その保護の内容は、明治の恤救規則から昭和の救護法まで続いた制限扶助主義から脱却し、旧生活保護法のような欠格条項の存在しない完全な一般扶助主義を採りいれたものである。
この原理は申請保護の原則と、不服申立や裁判上の救済を求める権利(行政争訟権)を派生させる。
またこの原理の規定にある「この法律の要件を満たす限り」という制限は、この法律の要件を満たさない場合は保護の対象とならないことを意味している。我が国に滞在する外国人に関しては、この法律そのものが、原則として適用されず一定の要件に該当する定住外国人に準用するという取り扱いが行われている。
4.健康で文化的な最低生活保障の原理とは何か。WHAT4
この原理は、生活保護法により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならないとするものであり、「最低限度の生活」は、憲法第25条に基づくものであることを示している。
その具体的な内容がどのようなものであるかについては、法第8条に規定するほか明言していない。しかし、国が憲法25条に規定された生存権の理念を具体的に保障しようとする制度の本質から、辛うじて生存が可能となる程度のものではなく、少なくともそのときどきの一般の生活水準、文化水準の変化に伴って相対的に決定される人間らしい生活を可能とする水準であると考えられている。
この法律に基づく処分が、この規定に違反するとして争われた裁判に、有名な朝日訴訟があり、近年で生活保護裁判においても常に大きな争点となっている。
※ 朝日訴訟東京地裁判決(昭35.10.19行裁例集11巻10号2921頁)において、「最低限度の生活」が「人間に値する生存」、「人間としての生活」を可能とする程度のものでなければならないとされ、それが人間としての生活の最低限という一線を有する以上、理論的には特定の国における特定の時点においては一応客観的に決定すべきものであり、また決定しうるものであるとされた。さらにその内容はいわゆるボーダーライン層の人々が現実に維持している生活水準のことではないこと、また国の予算の配分で左右されてもならないとした。そして、厚生大臣(当時)の保護基準設定行為は、憲法第25条に由来する生活保護法第3条、第8条第2項に規定されているところを逸脱し得ない「羈束行為」であり、その基準自体法律に適合しているかどうかを、裁判所で判断できるとした。
これに対して、最高裁判所は「健康で文化的な最低限度の生活」とは「抽象的な相対的概念」であり、その具体的内容は文化の発達、国民経済の進展等多数の不確定要素を総合考量して決定できるものであるとした。従ってその判断は「厚生大臣の合目的的な裁量」に委されており、その認定判断は「当不当の問題としての政府の政治責任が問われることはあっても、直ちに違法の問題を生じることはない」と消極的な判断を示した。(昭42.5.24民集21巻5号1043頁)。
5.保護の補足性の原理とは何か。WHAT5
保護は、生活に困窮するものが、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活のために活用することを要件として行われると規定され、民法に定める扶養義務者による扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとされる原理である。公的扶助制度の特徴のひとつである資力調査(ミーンズテスト)は、この原理に基づくものである。
この原理は、生活保護を受給しようとするものが、それに先立って、自己の有する資産や能力など自助の手段あるいは他の社会保障制度等による扶助などを活用することを条件とし、それらが欠如あるいは不足するときに、その不足を補足する限りで、保護を行うとするものであり、生活に関し個人責任ないし自己責任を基礎とする資本主義社会の最終かつ包括的な生活保障手段としての生活保護(公的扶助)の本質をよく示したものとされている。
この原理の中で、資産・能力等については活用することが要件として規定されているが、扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助の場合は、「保護に優先して行なわれるものとする」と規定され、要件ではなく保護適用の際の優先順位とされている。
6.保護の補足性の原理において資産の活用はどのように規定されているか。HOW1
保護の補足性の原理を規定した法第4条は「保護は、生活に困窮するものが、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活のために活用することを要件として行われる」と規定している。
そこで資産とは、何を指すのかという点が問題となるが、その前に法が「利用し得る」資産といっている点が重要である。つまり、法は利用し得ない場合もありうるということを前提にしているということである。したがって、持っているものの何から何まで活用(換金処分)すること、あるいは香典としてもらった金銭まで生活費に充当することまでは想定していないと考えられている。
また法律には明文の規定がないので、このような点も含め、活用すべき資産については厚生労働省の次官通達等に基づいてその内容が定められている。
資産とは、現金、預貯金、有価証券、土地・家屋はもとより生活用品など経済的価値のあるものを広くも含む考え方である。
活用の方法は、それまでどおり生活の中で使用するという方法と、現金等は別として売却して売却代金を生活費に当てるという方法の二つがある。この活用の範囲と尺度における原則として、実際に生活の中で活用されており売却するより持っている方が生活維持及び自立助長に役立つ場合は持っていてよいとされている。また現在活用されていない場合でも将来的に生活維持に役立つと認められる場合も同様である。
宅地・土地については実際の居住を前提に、処分価値と利用価値を比較して処分価値が著しくもの以外は保有が認められる。田畑は現在耕作されていることを前提にその地域の農家の平均耕作面積まで保有が認められる。
生活用品については、その世帯の人員、構成から判断して利用の必要があり、かつ、その地位の普及率が70%程度を超えるものについては、地域住民との均衡等を勘案の上保有が認められる。
自動車は原則として認められていないが、山間へき地等に居住する者あるいは障害者について、通勤、通学、通院等の場合に例外的に認められる場合がある。
7.保護の補足性の原理において能力の活用はどのように規定されているか。HOW2
能力の活用についても、補足性の原理を規定した法第4条は、保護は、「能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活のために活用することを要件として行われる」と規定している。能力そのものを具体的に定義しているわけではないが、現に労働能力があり、適当な就労先があるのに就労しようとしない者については、保護の要件を欠くので保護を受けられないとされている。
したがって、求職活動を行っていても現実に就労先がないときは保護を受けることができる。救護法の欠格条項のように労働能力があるから保護が受給できないという趣旨ではないということである。
8.保護の補足性の原理において扶養の優先についてはどのように規定されているか。HOW3
保護の補足性の原理において民法に定める扶養義務者による扶養は、この法律による保護に優先して行われるものとされ、資産や能力のように活用を要件とされるものではない。扶養義務者による扶養の活用は当事者間の協議とその履行があって可能となることなので要件ではなく、保護に優先させるという規定が行われたのである。
民法に定める扶養義務者の範囲は、夫婦はもとより直系血族兄弟姉妹等の絶対的扶養義務者に限定されているものではないが、扶養義務の活用に関する現実の運用においては扶養義務者と扶養義務の履行を受ける者の関係性に着目した助言指導が行われる。得に、夫婦相互間及び未成熟の子(義務教育終了前の子)に対する親に強い扶養義務(生活保持義務)が課せられている点が重要視される。
9.保護の補足性の原理において他の法律による扶助の優先についてはどのように規定されているか。HOW4
補足性の原理における「補足」とは、自己責任に対する補足と、他の制度に対する補足の二つ意味があるとされる。つまり生活保護法は他の社会保障制度に対して最終的な機能を有する制度なので、他の法律による扶助が受給できるときはその制度が優先するということである。
具体的には、国民年金法等年金各法、介護保険法等社会保険各法、労働者災害補償保険法、自動車損害賠償保険法、児童手当法、児童扶養手当法等社会手当に関する制度、その他あらゆる法律、制度が優先すると考えてよい。ただし、国民健康保険法のように生活保護受給により制度から適用除外されるものもある。
10.保護の補足性の原理適用に関し、急迫した状況にある場合等についてどのように規定されているか。HOW5
保護の補足性は、保護受給の要件あるいは保護適用の優先順位を規定したものであるが、個々の要保護者について、この規定に適合するかどうかを問題にしている場で、生存が危なくなる状況や放置できないほど状況が切迫している場合は、必要な保護を行うことを妨げるものではないとされている。