生活保護制度の目的

 生活保護制度は、我が国の公的扶助制度として、憲法に規定された国民の生存権を具体的に保障する法制度である。この生存権保障は、一般扶助主義を採用し、その対象に労働能力者を含めたことで、公的扶助と社会保険の統合としての社会保障制度の体系化を必然とし、社会保障制度全体に及ぶ。

 またこの制度は社会保障制度におけるセーフティネットとして重要な役割を果してきた。創設から50年を経た今日においても、「困窮に陥った国民の最後の拠り所として最低生活保障機能を充分果すよう今後も運営されなければならない」とされているが、近年制度のあり方をめぐる議論とともにその再構成が政策課題となっている。

 2000年6月に施行された社会福祉法(社会福祉事業法)等の改正を導いた社会福祉基礎構造改革において、「生活保護制度の今後のあり方については、国民生活や社会保障制度の動向を踏まえ、別途検討していく必要がある」とされ、社会福祉事業法等の一部改正の際には「生活保護のあり方について十分検討すること」と付帯決議がなされた。

 その後、2003年7月には社会保障審議会に「生活保護制度の在り方を検討する専門委員会」が設置され、2004年12月「生活保護制度の在り方検討委員会報告」が示されている。

  • 生存権と生活保護制度の関係

 生活保護制度は、憲法第25条に基づく生存権を、法律上の権利として具体化する制度である。生存権が憲法に規定されていても、それだけでは具体的な給付の根拠となるわけではなく、生活保護法という法律に基づく制度の仕組みがあって初めて生存権の理念が具体的に保障されることになる。またこのことを生活保護制度の面からとらえれば、この現実の制度を憲法の規定する生存権の理念に合致するように運用すべきであるということになるわけである。

  • 生活保護制度の目的

 この法律の目的は、日本国憲法第25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することであるとされている。

 「国家責任による最低限度の生活保障」と「自立の助長」がこの法律の目的であり、前者は「国家責任の原理」と言われる。この二つの目的はともに「基本原理」である。

 この原理の意義は、憲法に規定された生存権の具体化に相応しい最低限度の生活の保障を国家責任で行うとしたことである。つまり国家の責任ということは、この生存権保障規定が、生活保護法の根拠となっていることを宣言しているということである。

 またそのこととともに「人をして人たるに値する存在」たらしめるために、単にその最低生活だけではなく、自立の助長をこの法律の目的として定めたことである。

 しかし、この最低生活と自立の助長が当然に統一されて規定される必要のあったものであるかどうかは必ずしも明らかではない。むしろ両者は異質なもので、救護法から旧法にかけての長い伝統となっていた「貧しい弱者」を救済するという姿勢から、「保障」という新しい制度へ転換しきれなかった経緯を引き継ぐものであるとの見解もある。

 この点は、すべての国民が生活に困窮した場合と規定せず、「生活に困窮するすべての国民」としている点とあわせて重要な点である。

 小山は、自立の助長とは、「公私の扶助を受けず自分の力で社会生活に適応した生活を営むことができるように助け育てて行くこと」としながらも「人をしてその能力に相応しい状態において社会生活に適応させること」とした。この「自立助長」は具体的には「被保護者の自立指導」の実施につながっていくために、結局この法文が、法律の「社会福祉性」及び実務の中で行なわれる「ケースワーク」の根拠となった。

 自立の概念は、その後ノーマリゼーション理念の浸透や障害者の自立生活運動さらには社会福祉基礎構造改革の理念とも関連して、その具体的内容は社会福祉制度の運用に際して今日多様に変化してきた経緯がある。生活保護法の運用においても、その支援のあり方が問われている。

なお、この国家責任の部分において、「すべて国民は」と規定され、原則として外国人は適用除外とされ、その後改正されていないために要保護状態にある外国人の保護が現在でも緊急の課題となっている。

 

問い

1.生活保護制度の目的とは何か。WHAT1

2.生存権とは何か。WHAT2

3.健康で文化的な最低限度の生活はどのように保障されているか。HOW1

4.自立の助長とは何か。WHAT3

5.生活保護制度の対象となる者はだれか。WHO1

6.生活保護制度はいつ成立したか。WHEN1

7.生活保護法制定当時、自立助長の定義を行ったものは誰か。WHO2

8.現在の生活保護制度において、何が課題とされているか。WHAT4

 

答え

1.生活保護制度の目的とは何か。WHAT1

 生活保護制度の目的は、生活保護法第1条に規定されている。それは、健康で文化的な最低限度の生活保障と自立の助長である。これは憲法第25条に規定された生存権に基づくもので、同時に生活保護法には、この目的の実現について、国家が責任を負うことが規定されている。

 

2.生存権とは何か。WHAT2

 生存権とは健康で文化的な最低限度の生活を営む権利として憲法第25条に規定されたものである。これを具体的に保障した制度が生活保護制度である。生存権は、人としてふさわしい生活を求める権利であり、基本的人権のひとつとされている。

 基本的人権は、憲法第13条に規定された個人の幸福追求権に対して国家ができるだけ制限を加えないことを本旨とするものであるが、それでは形式的な自由平等が実質的な不平等さらには人権侵害を生み出すことから、人にふさわしい生活を保障するために国家が積極的に関与し、またそれを求める権利とされている。生存権は社会権的基本権といわれる。これが、生活保護制度に関し国家責任が謳われている所以である。

 

3.健康で文化的な最低限度の生活はどのように保障されているか。HOW1

 健康で文化的な最低限度の生活とは、文字通り最低の限度という意味ではない。人としてふさわしい生活を営むために、どうしても下回ることがあってはならないぎりぎりの線を保障するという趣旨に基づく表現である。これは、憲法第25条に規定された生存権に基づくもので基本的人権のひとつであるが、生活保護法に基づいて制度化されたことによって、具体的に法律上の権利となっている。

 この最低限度の生活について生活保護法は、第3条・第8条に基づき厚生労働大臣が生活保護基準の設定を行うことと定めている。生活保護法に基づく保護の要の判定・保護の程度決定は、生活保護基準に基づいて行われる。

 

4.自立の助長とは何か。WHAT3

 生活保護制度の目的は、健康で文化的な最低限度の生活保障と自立の助長である。生活保護制度は、単に生活に困窮する国民の最低限度の生活を保障するのみならず、保護を受ける者がその能力に応じ、自立して社会生活を送ることができるように実施すべきであることを、その目的の中に含めて規定している。

 具体的には、制度の実施にあたる担当者の相談・助言、指導指示等を通した個別対応として行われる。今日よく使われる自立支援という言葉とほぼ同義と考えてよい。この規定が、生活保護制度の社会福祉制度としての性格を根拠付け、生活保護の担当者がケースワーカーと呼称されてきた所以である。

 

5.生活保護制度の対象となる者はだれか。WHO1

 生活保護法第1条に「国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ必要な保護を行い」と規定されているように、対象となるのは全国民である。また、救護法や旧生活保護法おいては、素行不良者等に関して欠格条項設けられていたが、現行生活保護法第2条に規定された無差別平等の原理により、生活困窮に陥った原因等による差別を否定し、すべての国民に保護請求の権利が認められている。

 

6.生活保護制度はいつ成立したか。WHEN1

 生活保護制度は、1946(昭和21)年9月に可決成立し10月から成立した生活保護法基づいて成立した。その後現在の制度は、1950(昭和25)年5月可決成立し、同月公布され即日施行された現行生活保護法に基づいて実施されている。

 

7.生活保護法制定当時、自立助長の定義を行ったものは誰か。WHO2

 生活保護法制定に関わった小山進次郎は、著書「生活保護法の解釈と運用」の中で、生活保護における自立助長の定義を示している。その内容は、人はみな「何等かの自主独立の意味」で、可能性を持っているのだから、「その人をしてその能力にふさわしい状態において社会生活に適応させることこそ、真の意味で生存権を保障する所以である」とするものであった。

 

8.現在の生活保護制度において、何が課題とされているか。WHAT4

 2000(平成12)年以降の社会福祉基礎構造改革の中で、生活保護制度の見直しが行われた。2004年社会保障審議会「生活保護制度の在り方検討委員会報告」において、その基本的視点として、「利用しやすく自立しやすい制度への転換」が示されている。

 また生活保護制度における自立が、広く日常生活自立・社会生活自立を含むものであることが確認されている。