学習理論
学習とは、「経験に基づく比較的永続的な行動の変容」をいう。つまり、いろいろな経験をする中で、ある決まった状況では決まった行動をとるようになることをいう。例えば電車に乗る前には切符を買わないと、改札口を通ることができない。そこで、電車に乗る時は「切符を買う」という行動が身につくようになる。
心理学を哲学から独立させたヴント(Wundt, W.)は、ある瞬間における意識や知覚、思考を観察し報告させるという方法を考案し(これを内観という)、内観によって人の心を捉えることができると考えた。しかしワトソン(Watson, J. B.)は、意識というものは曖昧で信頼できないため、科学である心理学では扱うべき対象ではないと考えた。そして客観的に捉えることのできる「行動」を扱うべきであると主張した。なおワトソンの行動主義は厳密に行動のみを採用していたため、さまざまな批判がもたらされ、認知的な枠組(思考、知覚など)が導入されるなど修正されている。
例えば、私たちが家の門から急に道に飛び出さないようになるのは、飛び出して轢かれそうになった経験や大人に叱られた経験があるためである。道に迷わないようになる、ある決まったタイプの人を好きになる、礼儀が身につくなどは、学習の影響が大きい。またこの学習を通して何らかの心理過程が反映されるし、構築される。つまり学習理論とは、何らかの刺激を受け、何らかの認知的処理をし、行動として表出される仕組みを説明するものであるが、心を理解する上で大変重要な研究分野なのである。
この学習には、レスポンデント条件づけ、オペラント条件づけ、試行錯誤学習、洞察学習、観察学習、模倣学習などがある。
レスポンデント条件づけ(古典的条件づけ)とは、本来まったく関係のない刺激(中性刺激)が無条件反応を引き起こすことをいう。パヴロフ(Pavlov, I. P.)による犬の実験が有名である。本来、犬はメトロノームの音(刺激)を聞いても唾液を出す(反射反応)ことはない。肉片(刺激)を見たり口にしたりすると唾液が出る(反射反応)。そこで、メトロノームの音と肉片を対提示することで、メトロノームの音を聞かせるだけで唾液が出るようになる。メトロノームの音は唾液分泌を条件づけた刺激となる(条件刺激)。一方、唾液分泌はメトロノームによって条件づけられた反応(条件反応)となる。このレスポンデントとは、生活体が生まれつきもっている反射反応を意味する。例えば、急に強い光を見ると瞳孔が収縮する。瞳孔収縮は自発的(意図的)に生じているのではなく、体が勝手に反応することからも、反射反応である。この場合、強い光は瞳孔収縮を無条件に引き起こす刺激(無条件刺激)であり、瞳孔収縮は強い光によって無条件に生じる反応(無条件反応)である。
次に、オペラント条件づけ(道具的条件づけ)は、生活体が意図的・自発的に環境に働きかけて行動が身につく仕組みをいう。何らかの自発的行動を行った結果(賞罰など)によって、その行動が増減することをいう。オペラントとは自発的な行動を意味する。オペラント条件づけは多くの研究者によって指摘されているが、特に覚えておきたいのがスキナー(Skinner, B.F.)である。スキナーは「スキナー箱」と呼ばれる道具を作成して、ハトやネズミを用いて実験を行った。
このように、レスポンデント条件づけでは反射反応が扱われ、オペラント条件づけでは自発的行動が扱われることが、両者の条件づけにおいて大きな差異となる。
試行錯誤学習とは、「偶然の成功から無効な行動が排除されて課題解決に必要な行動だけが残されていく過程」を指す(木村, 2001)。ソーンダイク(Thorndike, E. L.)による実験が有名。ある仕掛けに触れると扉が開く箱(問題箱)に入れられたネコが、箱から出るためにもがいたり引っかいたりする中で、偶然その仕掛けに触れ外へ出る。このような体験を何度も繰り返す中で、無駄な行動(もがく、引っかくなど)が減り、ネコはすぐ仕掛けに触れて外へ出るようになった。このの試行錯誤学習を説明する考え方のひとつとして、ソーンダイク(Thorndike, E. L.)によって見出された「効果の法則」がある。ある状況下において、生活体に満足をもたらす、あるいは直後に満足をもたらすような反応は、その他の条件が同じであれば、その状況に結びつく。そして、もしその状況が生じた場合は、その反応が出現しやすくなることをいう。
洞察学習とは、試行錯誤学習のアンチテーゼとして生み出された。「その事態内の事物の意味や、事物相互の関係が明らかになる過程」を指す(北村, 1978)。ケーラー(Köhler, W.)のチンパンジーを用いた実験が有名。チンパンジーは、檻の外にある食べ物を取るために、二本の棒をつないだ。棒はもともと遊んだり噛み付いたりするための道具だったが、「食べ物を取る」という目的をかなえるための道具として捉えられた。つまり、このチンパンジーが置かれた状況(事態)における棒(事物)の意味が明らかになったといえる。
観察学習と模倣学習はかなり近い概念であり、共に他者の行動から学習することを意味するが、相違点は強化の有無である。観察学習は強化がなくても学習が成立する場合を指し、模倣学習は強化が伴う。例えば、観察学習は大人がある行動をしているのを子どもが見て真似る場合が当てはまる。模倣学習は、大人がある行動をしているのを子どもが真似をし、それを褒めたことでその行動が身につく場合が当てはまる。
観察学習はバンデューラ(Bandura, A.)、模倣学習はミラーとダラード(Miller, N. E. & Dollard, J.)が有名。
一般化とは、ある刺激によって条件づけが成立した後、その刺激と類似した刺激にも条件づけが成立する事態を指す。ワトソン(Watson, J. B.)のアルバート坊やの実験が有名。白ネズミと刺激音(金属音)が対提示されて不快感が生じるよう条件づけられたアルバート坊やは、白ネズミだけではなく白ウサギにも不快感を持つようになった。これはレスポンデント条件づけにおける般化のひとつの例である。
引用文献
木村裕 2001 オペラント条件づけの基礎 山内光哉・春木豊(編著) グラフィック学習心理学-学習と認知- サイエンス社 p54
北村晴朗 1978 心理学小辞典 協同出版 p141
問い
「学習」とは何か。WHAT1
なぜ行動の変容を把握し、学習過程を研究する必要があるのか。WHY1
「学習過程」でのそれぞれの現象はどのようなものか。HOW1
(1)「レスポンデント」とは
(2)「レスポンデント条件づけ」とは
(3)「オペラント条件づけ」とは
(4)「試行錯誤学習」とは
(5)「洞察学習」とは
(6)「般化(汎化)」とは
(7)「観察学習」とは
(8)「模倣学習」とは
答え
1.「学習」とは何か。WHAT1
学習とは、「経験に基づく比較的永続的な行動の変容」をいう。つまり、いろいろな経験をする中で、ある決まった状況では決まった行動をとるようになることをいう。例えば電車に乗る前には切符を買わないと、改札口を通ることができない。そこで、電車に乗る時は「切符を買う」という行動が身につくようになる。
2.なぜ行動の変容を把握し、学習過程を研究する必要があるのか。WHY1
心理学を哲学から独立させたヴント(Wundt, W.)は、ある瞬間における意識や知覚、思考を観察し報告させるという方法を考案し(これを内観という)、内観によって人の心を捉えることができると考えた。しかしワトソン(Watson, J. B.)は、意識というものは曖昧で信頼できないため、科学である心理学では扱うべき対象ではないと考えた。そして客観的に捉えることのできる「行動」を扱うべきであると主張した。なおワトソンの行動主義は厳密に行動のみを採用していたため、さまざまな批判がもたらされ、認知的な枠組(思考、知覚など)が導入されるなど修正されている。
例えば、私たちが家の門から急に道に飛び出さないようになるのは、飛び出して轢かれそうになった経験や大人に叱られた経験があるためである。道に迷わないようになる、ある決まったタイプの人を好きになる、礼儀が身につくなどは、学習の影響が大きい。またこの学習を通して何らかの心理過程が反映されるし、構築される。つまり学習理論とは、何らかの刺激を受け、何らかの認知的処理をし、行動として表出される仕組みを説明するものであるが、心を理解する上で大変重要な研究分野なのである。
3.「学習過程」でのそれぞれの現象はどのようなものか。HOW1
(1)「レスポンデント」とは
レスポンデントとは、生活体が生まれつきもっている反射反応を意味する。例えば、急に強い光を見ると瞳孔が収縮する。瞳孔収縮は自発的(意図的)に生じているのではなく、体が勝手に反応することからも、反射反応である。この場合、強い光は瞳孔収縮を無条件に引き起こす刺激(無条件刺激)であり、瞳孔収縮は強い光によって無条件に生じる反応(無条件反応)である。
(2)「レスポンデント条件づけ」とは
レスポンデント条件づけ(古典的条件づけ)とは、本来まったく関係のない刺激(中性刺激)が無条件反応を引き起こすことをいう。パヴロフ(Pavlov, I. P.)による犬の実験が有名である。本来、犬はメトロノームの音(刺激)を聞いても唾液を出す(反射反応)ことはない。肉片(刺激)を見たり口にしたりすると唾液が出る(反射反応)。そこで、メトロノームの音と肉片を対提示することで、メトロノームの音を聞かせるだけで唾液が出るようになる。メトロノームの音は唾液分泌を条件づけた刺激となる(条件刺激)。一方、唾液分泌はメトロノームによって条件づけられた反応(条件反応)となる。
(3)「オペラント条件づけ」とは
オペラントとは自発的な行動を意味するが、オペラント条件づけ(道具的条件づけ)は、生活体が意図的・自発的に環境に働きかけて行動が身につく仕組みをいう。何らかの自発的行動を行った結果(賞罰など)によって、その行動が増減することをいう。
(4)「試行錯誤学習」とは
試行錯誤学習とは、「偶然の成功から無効な行動が排除されて課題解決に必要な行動だけが残されていく過程」を指す(木村, 2001)。ソーンダイク(Thorndike, E. L.)による実験が有名。ある仕掛けに触れると扉が開く箱(問題箱)に入れられたネコが、箱から出るためにもがいたり引っかいたりする中で、偶然その仕掛けに触れ外へ出る。このような体験を何度も繰り返す中で、無駄な行動(もがく、引っかくなど)が減り、ネコはすぐ仕掛けに触れて外へ出るようになった。このの試行錯誤学習を説明する考え方のひとつとして、ソーンダイク(Thorndike, E. L.)によって見出された「効果の法則」がある。ある状況下において、生活体に満足をもたらす、あるいは直後に満足をもたらすような反応は、その他の条件が同じであれば、その状況に結びつく。そして、もしその状況が生じた場合は、その反応が出現しやすくなることをいう。
(5)「洞察学習」とは
洞察学習とは、試行錯誤学習のアンチテーゼとして生み出された。「その事態内の事物の意味や、事物相互の関係が明らかになる過程」を指す(北村, 1978)。ケーラー(Köhler, W.)のチンパンジーを用いた実験が有名。チンパンジーは、檻の外にある食べ物を取るために、二本の棒をつないだ。棒はもともと遊んだり噛み付いたりするための道具だったが、「食べ物を取る」という目的をかなえるための道具として捉えられた。つまり、このチンパンジーが置かれた状況(事態)における棒(事物)の意味が明らかになったといえる。
(6)「般化(汎化)」とは
般化(汎化)とは、ある刺激によって条件づけが成立した後、その刺激と類似した刺激にも条件づけが成立する事態を指す。ワトソン(Watson, J. B.)のアルバート坊やの実験が有名。白ネズミと刺激音(金属音)が対提示されて不快感が生じるよう条件づけられたアルバート坊やは、白ネズミだけではなく白ウサギにも不快感を持つようになった。これはレスポンデント条件づけにおける般化のひとつの例である。
(7)「観察学習」とは
他者の行動から学習することを意味するが、特に強化がなくても学習が成立する場合を指す。大人がある行動をしているのを子どもが見て真似る場合が当てはまる。
(8)「模倣学習」とは
他者の行動から学習することを意味するが、特に強化が伴って学習が成立する場合を指す。大人がある行動をしているのを子どもが真似をし、それを褒めたことでその行動が身につく場合が当てはまる。