記憶モデル

 記憶とは、人が過去に経験したことを、一定の時間的経過後における行動の中で再現する精神活動を指す。例えば、心理学のテスト内容を一夜漬け(過去に経験)し、5時間後(一定時間後)の試験時に論述する中で思い出す(行動の中で再現する精神活動)ということが挙げられる。私たちはさまざまな記憶を保持している。記憶がないと大学行のバスにも乗れない。また記憶があるからこそ私たちは楽しい思いになったり悲しい思いになったりもする。記憶は私たちの心や行動に大変大きな影響を与えているのである。

記憶は、記銘(符号化)-保持(貯蔵)-想起(検索)からなる。記銘は情報を刻み込む・覚え込むことをいう。保持は記銘した情報を保っておくこと、想起は保存しておいた情報を必要な時に思い出すことをいう。

記憶の保持時間という側面から、記憶は3種類に分類されることが指摘されている。感覚記憶は、視覚情報は1秒以下、聴覚情報は5秒以下しか保持できない記憶である。短期記憶は15秒から30秒の保持期間しかない(森, 1995)。長期記憶は数日から一生保持される。

見聞きした刺激は、まず感覚記憶(感覚記憶貯蔵庫)に送られる。感覚記憶では多くの情報が保存できるが、注意などを向けたものが短期記憶(短期記憶貯蔵庫)に転送され、それ以外はすぐ消失してしまう。短期記憶では7±2チャンク(5~9項目)しか保持できず、新しい項目によって古い記憶は置き換えられてしまう。リハーサルや体制化、有意味化、符号化などを経て、長期記憶(長期記憶貯蔵庫)に転送される。

この長期記憶は、宣言的記憶と手続き的記憶から構成される。宣言的記憶は顕在記憶とも呼ばれ、エピソード記憶、意味記憶から構成される。手続き的記憶は潜在記憶ともいい、運動技能などから構成される(山口, 2001)。宣言的記憶のひとつであるエピソード記憶とは、生活史のように「いつどこでなにをしたか」ということに関する記憶である。「8月○日に横浜へアルフィーのコンサートに行った」という記憶はエピソード記憶となる。一方、意味記憶とは知識や概念に関する記憶である。「昆虫は6本足である」「9×9=81」などが意味記憶となる。

 近年では作業記憶という概念が示されている。例えば1000円を持って買い物に行き、520円のものを購入したとする。その際、「1000」と「520」を記憶しつつ、四則演算を長期記憶から取り出して引き算をする。そして店を出ると値段などは忘れてしまう。このように現在の情報や過去に記憶した情報を一時保持するのは短期記憶であるが、さまざまな認知活動を伴っているため、近年は作業記憶と表現され、研究が積み重ねられるようになってきた。

記憶の種類は他にもある。展望的記憶とは、「明日の18時からはアルフィーのコンサートだ」「1週間後の○日にベルリンへ遊びに出かける」といったように、これから行うことの記憶を指す。フラッシュバルブ記憶とは、ショックの伴う事件をニュースなどで見ると、一度だけの体験にもかかわらず、永続的にはっきりと残った記憶をいう

このような記憶であるが、覚えた内容を忘却する原因としてはいろいろと論じられているが、覚えたことを使用しないために忘れる説、精神活動が記憶保持に干渉する説、記憶したことをうまく検索できず思い出せない(検索失敗)説、無意識に抑圧する抑圧説などがある。なお、新しい記憶が前の記憶の想起に干渉することを逆向干渉(逆向抑制)、前の記憶が新しい記憶の想起に干渉することを順向干渉(順向抑制)という。

このような記憶の領域で有名な研究者として、エビングハウス、タルヴィングなどが挙げられる。エビングハウス(Ebbinghaus, H.)は無意味綴りを用いて、一定時間経過後にどれだけ思い出せるかを実験し忘却曲線で示した。タルヴィング(Tulving, E.)は、長期記憶にはエピソード記憶と意味記憶があることを指摘したひとりである。

 記憶のメカニズムを、時間および忘却の観点から「視覚情報の記憶」という道筋で整理すると次の通りである。

視覚で得られた刺激は、まず感覚記憶として保存されるが、目に映ったもののコピー状態で保存され、記憶痕跡の衰退によってわずか1秒しかもたない。そこで、注意を向けることで、18~30秒保持できる短期記憶へと転送される。しかしながら新しい刺激が入ってくる(新しい記憶)ために、保持していた記憶が新しい記憶に置き換えられてしまう。そこで維持リハーサルや精緻化リハーサル、再体制化、有意味化などによって、数日から一生保持できる長期記憶へ転送される。

 なお、記憶の実験を行うと、最初の方の情報と最後の方の情報を多く再生できる(思い出すことができる)ことが多い。この現象を説明する用語として系列位置効果がある。系列位置効果とは、例えば語が複数個連続して提示されたのを記憶した際、どの位置で提示されたか(系列内位置)によって記憶の難易度が異なる現象をいう。20個の語を順番に提示記憶するような課題の場合、最初の1~3番目の語は再生率が高い。これは最初に提示されることでリハーサルが行われ長期記憶に転送されたことによる。また最終の2~3個の語も再生率が高い。これは、短期記憶にまだ貯蔵されていることによる。

引用文献

山口快生 2001 記憶と忘却 山内光哉・春木豊(編著) グラフィック学習心理学-学習と認知- サイエンス社 p210,211

森敏昭 1995 記憶のしくみ 森敏昭・井上毅・松井孝雄(編著) グラフィック認知心理学 サイエンス社 pp13-34.

 

問い

  1. 記憶とは何か。WHAT1

  2. なぜ記憶のメカニズムが扱われるのか。WHY1

  3. 記憶のメカニズムとはどのようなものか。HOW1

    (1)感覚記憶・短期記憶・長期記憶とは。

    (2)感覚記憶から短期記憶へ、短期記憶から長期記憶に転送されるには。

    (3)忘却する原因とは。

    (4)長期記憶を構成する記憶とは。

    (5)エピソード記憶・意味記憶とは。

    (6)作業記憶(作動記憶)とは。

    (7)展望的記憶・フラッシュバルブ記憶とは。

 

答え

1.記憶とは何か。WHAT1

 記憶とは、人が過去に経験したことを、一定の時間的経過後における行動の中で再現する精神活動を指す。例えば、心理学のテスト内容を一夜漬け(過去に経験)し、5時間後(一定時間後)の試験時に論述する中で思い出す(行動の中で再現する精神活動)ということが挙げられる。

 

2.なぜ記憶のメカニズムが扱われるのか。WHY1

私たちはさまざまな記憶を保持している。記憶がないと大学行のバスにも乗れない。また記憶があるからこそ私たちは楽しい思いになったり悲しい思いになったりもする。記憶は私たちの心や行動に大変大きな影響を与えているのである。

 

3.記憶のメカニズムとはどのようなものか。HOW1

(1)記銘、保持、想起とは。

記憶は、記銘(符号化)-保持(貯蔵)-想起(検索)からなる。記銘は情報を刻み込む・覚え込むことをいう。保持は記銘した情報を保っておくこと、想起は保存しておいた情報を必要な時に思い出すことをいう。

(2)感覚記憶・短期記憶・長期記憶とは。

記憶の保持時間という側面から、記憶は3種類に分類されることが指摘されている。感覚記憶は、視覚情報は1秒以下、聴覚情報は5秒以下しか保持できない記憶である。短期記憶は15秒から30秒の保持期間しかない(森, 1995)。長期記憶は数日から一生保持される。

(3)感覚記憶から短期記憶へ、短期記憶から長期記憶に転送されるには。

見聞きした刺激は、まず感覚記憶(感覚記憶貯蔵庫)に送られる。感覚記憶では多くの情報が保存できるが、注意などを向けたものが短期記憶(短期記憶貯蔵庫)に転送され、それ以外はすぐ消失してしまう。短期記憶では7±2チャンク(5~9項目)しか保持できず、新しい項目によって古い記憶は置き換えられてしまう。リハーサルや体制化、有意味化、符号化などを経て、長期記憶(長期記憶貯蔵庫)に転送される。

(4)忘却する原因とは。

覚えたことを使用しないために忘れる説、精神活動が記憶保持に干渉する説、記憶したことをうまく検索できず思い出せない(検索失敗)説、無意識に抑圧する抑圧説などがある。なお、新しい記憶が前の記憶の想起に干渉することを逆向干渉(逆向抑制)、前の記憶が新しい記憶の想起に干渉することを順向干渉(順向抑制)という。

(5)長期記憶を構成する記憶とは。

長期記憶は、宣言的記憶と手続き的記憶から構成される。宣言的記憶は顕在記憶とも呼ばれ、エピソード記憶、意味記憶から構成される。手続き的記憶は潜在記憶ともいい、運動技能などから構成される(山口, 2001)。

(6)エピソード記憶・意味記憶とは。

宣言的記憶のひとつであるエピソード記憶とは、生活史のように「いつどこでなにをしたか」ということに関する記憶である。「8月○日に横浜へアルフィーのコンサートに行った」という記憶はエピソード記憶となる。一方、意味記憶とは知識や概念に関する記憶である。「昆虫は6本足である」「9×9=81」などが意味記憶となる。

(7)作業記憶(作動記憶)とは。

例えば1000円を持って買い物に行き、520円のものを購入したとする。その際、「1000」と「520」を記憶しつつ、四則演算を長期記憶から取り出して引き算をする。そして店を出ると値段などは忘れてしまう。このように現在の情報や過去に記憶した情報を一時保持するのは短期記憶であるが、さまざまな認知活動を伴っているため、近年は作業記憶というようになってきた。

(8)展望的記憶・フラッシュバルブ記憶とは。

展望的記憶とは、「明日の15時からは勉強会だ」「1週間後の○日にベルリンへ遊びに出かける」といったように、これから行うことの記憶を指す。フラッシュバルブ記憶とは、ショックの伴う事件をニュースなどで見ると、一度だけの体験にもかかわらず、永続的にはっきりと残った記憶をいう。