認知理論

認知理論は物事の捉え方について論じるものである。内観を掲げたヴント(Wundt, W.)の考えに反駁した行動主義心理学者によって、行動のみを扱うという流れができ、しばらく行動主義の隆盛が見られた。しかし、人間の心の仕組みを理解するためには、単に行動をとらえればよいのではないという発想が徐々に生まれ、行動を取り扱いつつも、より心的過程を明らかにすることに基盤を置いた立場(認知心理学)が生まれてきた。

認知理論で扱われる領域のひとつに感覚・知覚に関する知見がある。私たちは五官を通してさまざまな刺激を感受している。道路を車で走っていると、時折赤いランプが点滅している箇所に遭遇する。日中はただの赤ランプとして把握できるが、夜は「警察だ」と考えてスピードを落としてしまうことがある。赤ランプは物理的刺激であり、警察ではないので、車のスピードを落とすことはない。しかし、赤ランプを「警察の車がいる」と捉えてしまうと、車のスピードを落とすことになる。これが心理的環境である。このように、私たちの行動は「そこに何があるか」という物理的環境に左右されるのではなく、「そこに何がある『と思うか』」という心理的環境に左右されるのである。

このひとつの例が錯覚である。錯覚とは外界の物理的な特性と知覚された特性とが異なることをいう。ミュラー・リヤー錯視はそのひとつである。また、文脈効果とは周囲の状況や知覚する側の経験や思いなどによって、刺激に対する知覚に影響を受けることをいう。有名なものとして、「THE CAT」がある。TとEの間にある文字の形とCとTの間にある文字の形は同じである。私たちは「ザ・キャット」と知覚するが、その場合は前の文字がH、後ろの文字がAと知覚しているという例がある。

「図」「地」という概念もあるが、知覚の上で図は形があり浮き上がって見える部分を指し、逆に地は形が崩れてしまって背景となる部分を指す。「ルビンの盃」は典型的な例である。この場合、「盃」と「向かい合った人」を見て取ることができる。「盃」が図となっている場合、「向かい合った人」は形がなく背景となってしまっている。逆に「向かい合った人」が図となっている場合は、「盃」は形がなく背景となる。このように図と地が入れ替わることがあるが、これを「図地反転図形」ともいう。

仮現運動とは、継時的に異なった場所で光が点灯した時に光が移動して見えるといった現象をさす。パチンコ屋や飲食店のネオンがその例に当たる。誘導運動とは、夜空を見ていると雲が風によって動いているにも関わらず、月が動いているように見えるといった現象を指す。自動運動は、暗闇の中で静止光を見つめていると、光が動いているように見えるといった現象を指す。

さらに、プレグナンツの法則と呼ばれる概念もある。心理現象は、その状況において可能な限り「よい形態」をもつという考え方であり、ゲシュタルト心理学という考え方の根本となる。簡潔性の原理ともいう。近接の要因(近いものはまとまって見える)、類同の要因(似たものはまとまって見える)などが挙げられる。

 知覚の恒常性とは、例えばジュースの缶を真上から見た時(円)と斜めから見た時(楕円)とでは、目に至る刺激が異なるため網膜像は異なるが、共に円として知覚するような現象を指す。大きさの恒常性、形の恒常性、明るさの恒常性などがある。

ここまでは視覚に関する知覚・感覚の考えを示してきたが、聴覚でも起こり得る。カクテルパーティ効果という概念があるが、これは多くの人が集まりさまざまな声や音が流れる状況でも、やり取りしている人の声や自分の名前を呼ぶ声が聞こえる現象を指す。自分にとって必要な情報を選択し、その他の情報は選択されないという「選択的注意」が働いている。

以上の通り、心理的環境と物理的環境は一致しないことが多く、刺激を単に体験しているのではなく、刺激をどのように解釈しているか、その解釈が我々の体験となるのである。

文字をどのように捉えているかについては、これまでさまざまに論じられてきた。おおよそ2つの考え方が存在するが、そのひとつは鋳型照合モデルである。「F」という文字を見た場合に、これまで記憶された「鋳型」とよばれるパターンと照合され、合致した場合に「F」と認識されるという考え方である。しかし、この考え方では、すべての文字をさまざまな字体で記憶しておかなければならないという問題が伴う。もうひとつは特徴分析モデルである。「F」は水平線が2つ、垂直線が1つ、直角に交わる部分が2箇所存在するが、それらの特徴を把握し文字として認識していく考え方をいう。

最後に、感覚・知覚・認知における著名な研究者を挙げる。ヴェルトハイマー(Wertheimer, M.)は、プレグナンツの法則(簡潔性の原理)、仮現運動を示した。フェヒナー(Fechner, G.T.)は、感覚の絶対閾と弁別閾を示した。絶対閾は、感じることができない刺激強度と感じることができる刺激強度との境界を示し、例えば0.05gのものを手のひらに乗せられても重さを感じることができないが、徐々に増やしていき0.1gになったら重さを感じることができたという状況をいう。弁別閾は、刺激強度が変化した時に、その変化を感じることができる最小の変化量を指し、例えば10gを11gにした時の差はわからないが、12gにしたら違いを知覚できたという状況を指す。

 

問い

  1. 認知理論とは何か。WHAT1

  2. なぜ認知理論が重要なのか。WHY1

  3. 認知の仕組みはどのようなものか。HOW1

    (1)錯覚とは。

    (2)文脈効果とは。

    (3)図・地とは。

    (4)仮現運動とは。

    (5)プレグナンツの法則とは。

    (6)知覚の恒常性とは。

    (7)カクテルパーティ効果とは。

    (8)文字をどのように認識しているか。

 

答え

1.認知理論とは何か。WHAT1

 認知には「物事を捉える」という意味合いがある。認知理論とは、思考や知覚、記憶、学習、意思決定など、私たちの物事の捉え方やその時の心の動きにどのような現象が起きているのか、どのような仕組みで成り立っているのかをまとめようとするものである。

 

2.なぜ認知理論が生まれてきたのか。WHY1

 内観を掲げたヴント(Wundt, W.)の考えに反駁した行動主義心理学者によって、行動のみを扱うという流れができ、しばらく行動主義の隆盛が見られた。しかし、人間の心の仕組みを理解するためには、単に行動をとらえればよいのではないという発想が徐々に生まれ、行動を取り扱いつつも、より心的過程を明らかにすることに基盤を置いた立場(認知心理学)が生まれてきた。

 

3.認知の仕組みはどのようなものか。HOW1

(1)錯覚とは。

 外界の物理的な特性と知覚された特性とが異なることをいう。ミュラー・リヤー錯視はそのひとつである。

(2)文脈効果とは。

 有名なものとして、「THE CAT」がある。TとEの間にある文字の形とCとTの間にある文字の形は同じである。私たちは「ザ・キャット」と知覚するが、その場合は前の文字がH、後ろの文字がAと知覚している。このように、周囲の状況や知覚する側の経験や思いなどによって、刺激に対する知覚に影響を受けることをいう。

(3)図・地とは。

 知覚の上で、図は形があり浮き上がって見える。逆に地は形が崩れてしまって背景となる。「ルビンの盃」は典型的な例である。この場合、「盃」と「向かい合った人」を見て取ることができる。「盃」が図となっている場合、「向かい合った人」は形がなく背景となってしまっている。逆に「向かい合った人」が図となっている場合は、「盃」は形がなく背景となる。このように図と地が入れ替わることがあるが、これを「図地反転図形」ともいう。

(4)仮現運動とは。

 仮現運動とは、継時的に異なった場所で光が点灯した時に光が移動して見えるといった現象をさす。パチンコ屋や飲食店のネオンがその例に当たる。知覚においては、誘導運動、自動運動などの現象がある。誘導運動とは、夜空を見ていると雲が風によって動いているにも関わらず、月が動いているように見えるといった現象を指す。自動運動は、暗闇の中で静止光を見つめていると、光が動いているように見えるといった現象を指す。

(5)プレグナンツの法則とは。

 心理現象は、その状況において可能な限り「よい形態」をもつという考え方であり、ゲシュタルト心理学という考え方の根本となる。簡潔性の原理ともいう。近接の要因(近いものはまとまって見える)、類同の要因(似たものはまとまって見える)などが挙げられる。

(6)知覚の恒常性とは。

 知覚の恒常性とは、例えばジュースの缶を真上から見た時(円)と斜めから見た時(楕円)とでは、目に至る刺激が異なるため網膜像は異なるが、共に円として知覚するような現象を指す。大きさの恒常性、形の恒常性、明るさの恒常性などがある。

(7)カクテルパーティ効果とは。

 カクテルパーティー効果とは、多くの人が集まりさまざまな声や音が流れる状況でも、やり取りしている人の声や自分の名前を呼ぶ声が聞こえる現象を指す。自分にとって必要な情報を選択し、その他の情報は選択されないという「選択的注意」が働いている。

(8)文字をどのように認識しているか。

2つの考え方がある。ひとつは鋳型照合モデルである。「F」という文字を見た場合に、これまで記憶された「鋳型」とよばれるパターンと照合され、合致した場合に「F」と認識されるという考え方である。しかし、この考え方では、すべての文字をさまざまな字体で記憶しておかなければならないという問題が伴う。

もうひとつは特徴分析モデルである。「F」は水平線が2つ、垂直線が1つ、直角に交わる部分が2箇所存在するが、それらの特徴を把握し文字として認識していく考え方をいう。