情動・情緒
感情・情動・情緒・気分という用語については、区別して使用することは少ない。新版心理学事典によると、感情は「経験の情感的あるいは情緒的な面をあらわす総称的用語」(浜, 1981, p124)、情動あるいは情緒は「急激に生起し、短時間で終わる比較的強力な感情であると定義されることが多い」こと、「情動は主観的な内的経験であるとともに、行動的・運動的反応として表出され、また内分泌線や内臓反応の変化などの生理的活動を伴うものであり、より広義の意味を含む感情と明確に区別することはむつかしい」(松山, 1981, p377)ことが指摘されている。気分は「楽しい気分、憂うつな気分、楽観的などのように、ある長さをもった感情をさす」(浜, 1981, p124)。大まかに捉えると、感情は大きい概念であり、情動・情緒は短時間(身体反応も伴う)、気分はある程度継続される内的経験といえるが、気分を「漠然とした散漫な感情状態」(Russell & Feldman Barrett, 1999)とする場合もあり、統一されていないことも理解しておく必要がある。
この情動の構造を捉える考え方のひとつに円環モデルがある。ラッセルら(Russell & Feldman Barrett, 1999)によると、情動は活性化(例えば動的か落ち着いているか)の次元と、正負(快適か不快か)の次元から構成される。また、情動は表情に現れることが多々あるが、ウッドワース(Woodworth, 1938)やシュロスバーグ(Schlosberg, 1941, 1952)は、「快-不快」の次元、「注意-拒否」の次元を軸とした表情環を考案した。
情動はどのように発生してきたのだろうか。生まれつきのものなのか、後天的に身につけていくものなのだろうか。従来、乳幼児の情動は「興奮」しかないと考えられてきたが、快・不快・興味の情動が新生児段階で保持されているという。また、喜び・驚き・悲しみ・怒りといった基本的な情動も生後数ヶ月の間で出現するという。
では実際に情動はどのように生起するかであるが、これについてもさまざまな論がある。1つ目としてジェームズ=ランゲ説が挙げられる。ジェームズ(James, W.)は「私たちは悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのである」という言葉に示されるように身体的変化が起こって情動を体験するという考え方を提示した。同時期にランゲ(Lange, C.)も同様の説を掲げたため、ジェームズ=ランゲ説という。2つ目はキャノン=バード説である。キャノン(Canon, W.)は、脳の視床(下部)が感情に大きく影響していると考えた。3つ目は二要因理論である。シャクターとシンガー(Schachter & Singer)は、自分の身体的な変化をどのような理由で生じたのかを認知した時に、それに応じた情動が生じると考えた。心臓の鼓動が早い(身体的な変化)時に、これはお化けを見たからと捉える(認知的評価)ことで恐怖が生じる、という考え方である。あるいは「可愛い・格好いい異性を見たから」と捉えることで、好意の情動が生じる。
情動と類似した概念として気分があることは先述した通りであるが、気分が落ち込んでいる時に悲しい出来事を思い出し、気分が明るい時に楽しい過去の出来事を思い出すことは日常よく体験されることである。このような現象を気分一致効果といい、ある情動が活性化されると、その情動と結合している記憶が活性化されやすくなることをいう。バウアー(Bower, G. H.)による。
情動には「無力感」という側面も存在するが、セリグマン(Seligman, M. E. P.)は犬を被験体とした電気ショックの回避実験を行っていたところ、電気ショックを受け続けた犬の存在に気づいた。その犬の背景を調べたところ、以前に電気ショックを受ける実験で、どうあがいても電気ショックから逃れられないことを体験した犬であることがわかった。このように、学習された無気力であることを「学習性無力感」という。
この学習性無力感に大きな影響を及ぼすのが帰属という概念である。帰属とは、ある事象(出来事など)が起こった際、その原因をある理由に置くことをいう。例えば、国家試験に合格した場合「自分が努力したから」「運がよかった」と考えることがあるが、これが帰属である。
帰属の概念として著名な研究者として、ロッター、ワイナー、セリグマンなどが挙げられる。ロッター(Rotter, J. B.)は、統制の所在(locus of control)という概念を用いた。ある出来事の原因を環境(他者)や運に帰属する場合を「外的統制」、自分に帰属する場合を「内的統制」と定めた。ワイナー(Weiner, B.)は、「内的-外的の次元」と「安定的-不安定的の次元」を組み合わせ、4つの原因帰属スタイルを提示した(能力:内的+安定的、努力:内的+不安定的、課題の困難度:外的+安定的、運:外的+不安定的)。例えば、ある試験に合格した場合、自分の力ではなく、今回たまたまだったと考える場合がある(つまり運)。ワイナーは、達成動機(ある目標に到達しようとする動機)の高低で原因帰属スタイルが異なることも指摘している。達成動機が高い人で課題に成功した場合、その原因を自分の能力の高さや努力に帰属しやすい。達成動機が高い人で課題に失敗した場合は、努力不足に帰属する。達成動機が低い人で課題に成功した場合、課題の容易さや運のよさに帰属しやすい。達成動機が低い人で課題に失敗した場合は、能力不足に帰属する。
セリグマン(Seligman, M. E. P.)は、内在性の次元(自分のせいとするか、他のせいとするか)、全般性の次元(この状況が他のことにも波及すると考えるか、この状況のみのことと考えるか)、安定性の次元(この状況はずっと続くと考えるか、今回たまたまだったと考えるか)の3つの次元を考えた。悪い出来事が起こった時に、内的帰属(自分のせい)、全般的帰属(この悪いことが他にも起こる)、安定的帰属(この悪い状況がずっと続く)とした場合、無力感になりやすいことを指摘した。
情動に含められるかどうか難しいところであるが、自己効力期待という概念に着いても紹介しておきたい。自己効力期待とは、自分がどれぐらいの確率でその行動ができるかという予想を指す。自己効力感という場合もあるが、これは「ある課題を効果的に解決できる自信」をいう(ドライデンら, 1996, p31)。 バンデューラは、期待を「自己効力期待」と「結果期待」にわけた。結果期待は、その行動をとればある結果を得られるだろうという予想を指す。ある行動をとることができる(自己効力期待)、そしてある結果を得られる(結果期待)が高ければ、行動が生じる(ドライデンら, 1996, pp30-31)。塩分の摂り過ぎのため脳卒中が多発する地域で、冷奴に醤油をドバドバかけず、小皿に醤油を少したらして、それに冷奴をつけて食すという行動を勧めたとする。住民にとっては醤油を小皿に移すという行動はたやすくでき(自己効力期待)、健康も維持できる(結果期待)ため、醤油を冷奴にかけるという行動が変容したという例がある。これは自己効力期待と結果期待による行動変容の一例として考えることができる。
引用文献:
Smith, E. E., Nolen-Hoeksema, S., Fredrickson, B. L., & Loftus, G. R. 2003 Atkinson & Hilgerd’s introduction to psychology, 14th edition. Wadsworth/Thomson Leaning, p390
松山義則 1981 情動 梅津八三・相良守次・宮城音弥・依田新(監) 新版心理学事典 平凡社, pp377-379.
浜治世 1981 感情 梅津八三・相良守次・宮城音弥・依田新(監) 新版心理学事典 平凡社, pp124-126.
Russell, J. A., & Feldman Barrett, L. 1999 Core affect, prototypical emotional episodes, and other things called emotion: Dissecting the elephant. Journal of Personality and Social Psychology, 76, 805-819.
Woodworth, R. S. 1938 Experimental Psychology. Henry Holt, New York. (今村護郎 1968 情緒 八木冕(編) 心理学II 培風館 pp83-104.より引用)
Schlosberg, H. 1941 A scale for judgment of facial expressions. Journal of Experimental Psychology, 29, 497-510.
Schlosberg, H. 1952 The description of facial expressions in terms of two dimensions. Journal of Experimental Psychology, 44, 229-237.
ドライデン, W. & レントゥル, R.(丹野義彦(訳)) 1996 認知臨床心理学入門-認知行動アプローチの実践的理解のために- 東京大学出版会
問い
感情・情動・情緒・気分とは何か。WHAT1
なぜ感情・情動が現れるのか。WHY1
感情・情動に関する現象はどのようなものか。HOW1
(1)情動の構造とは。
(2)情動の派生時期とは。
(3)気分一致効果とは。
(4)学習性無力感とは。
(5)帰属とは。
(6)セルフ・エフィカシーとは。
答え
1.感情・情動・情緒・気分とは何か。WHAT1
感情・情動・情緒・気分という用語については、区別して使用することは少ない。新版心理学事典によると、感情は「経験の情感的あるいは情緒的な面をあらわす総称的用語」(浜, 1981, p124)、情動あるいは情緒は「急激に生起し、短時間で終わる比較的強力な感情であると定義されることが多い」こと、「情動は主観的な内的経験であるとともに、行動的・運動的反応として表出され、また内分泌線や内臓反応の変化などの生理的活動を伴うものであり、より広義の意味を含む感情と明確に区別することはむつかしい」(松山, 1981, p377)ことが指摘されている。気分は「楽しい気分、憂うつな気分、楽観的などのように、ある長さをもった感情をさす」(浜, 1981, p124)。大まかに捉えると、感情は大きい概念であり、情動・情緒は短時間(身体反応も伴う)、気分はある程度継続される内的経験といえるが、気分を「漠然とした散漫な感情状態」(Russell & Feldman Barrett, 1999)とする場合もあり、統一されていないことも理解しておく必要がある。
2.なぜ感情・情動が現れるのか。WHY1
1つ目としてジェームズ=ランゲ説が挙げられる。ジェームズ(James, W.)は「私たちは悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのである」という言葉に示されるように身体的変化が起こって情動を体験するという考え方を提示した。同時期にランゲ(Lange, C.)も同様の説を掲げたため、ジェームズ=ランゲ説という。
2つ目はキャノン=バード説である。キャノン(Canon, W.)は、脳の視床(下部)が感情に大きく影響していると考えた。
3つ目は二要因理論である。シャクターとシンガー(Schachter & Singer)は、自分の身体的な変化をどのような理由で生じたのかを認知した時に、それに応じた情動が生じると考えた。心臓の鼓動が早い(身体的な変化)時に、これはお化けを見たからと捉える(認知的評価)ことで恐怖が生じる、という考え方である。あるいは「可愛い・格好いい異性を見たから」と捉えることで、好意の情動が生じる。
3.感情・情動に関する現象はどのようなものか。HOW1
(1)情動の構造とは。
情動の構造を捉える考え方のひとつに円環モデルがある。ラッセルら(Russell & Feldman Barrett, 1999)によると、情動は活性化(例えば動的か落ち着いているか)の次元と、正負(快適か不快か)の次元から構成される。
また、情動は表情に現れることが多々あるが、ウッドワース(Woodworth, 1938)やシュロスバーグ(Schlosberg, 1941, 1952)は、「快-不快」の次元、「注意-拒否」の次元を軸とした表情環を考案した。
(2)情動の派生時期とは。
従来、乳幼児の情動は「興奮」しかないと考えられてきたが、快・不快・興味の情動が新生児段階で保持されているという。また、喜び・驚き・悲しみ・怒りといった基本的な情動も生後数ヶ月の間で出現するという。
(3)気分一致効果とは。
気分一致効果とは、ある情動が活性化されると、その情動と結合している記憶が活性化されやすくなることをいう。バウアー(Bower, G. H.)による。例えば、気分が落ち込んでいる人がいた場合、つらい出来事や悲しい体験をよく思い出すという現象は気分一致効果で説明できる。
(4)学習性無力感とは。
セリグマン(Seligman, M. E. P.)は犬を被験体とした電気ショックの回避実験を行っていたところ、電気ショックを受け続けた犬の存在に気づいた。その犬の背景を調べたところ、以前に電気ショックを受ける実験で、どうあがいても電気ショックから逃れられないことを体験した犬であることがわかった。このように、学習された無気力であることを「学習性無力感」という。
(5)帰属とは。
帰属とは、ある事象(出来事など)が起こった際、その原因をある理由に置くことをいう。例えば、国家試験に合格した場合「自分が努力したから」「運がよかった」と考えることがあるが、これが帰属である。
ロッター(Rotter, J. B.)は、統制の所在(locus of control)という概念を用いた。ある出来事の原因を環境(他者)や運に帰属する場合を「外的統制」、自分に帰属する場合を「内的統制」と定めた。
ワイナー(Weiner, B.)は、「内的-外的の次元」と「安定的-不安定的の次元」を組み合わせ、4つの原因帰属スタイルを提示した(能力:内的+安定的、努力:内的+不安定的、課題の困難度:外的+安定的、運:外的+不安定的)。例えば、ある試験に合格した場合、自分の力ではなく、今回たまたまだったと考える場合がある(つまり運)。
ワイナーは、達成動機(ある目標に到達しようとする動機)の高低で原因帰属スタイルが異なることも指摘している。達成動機が高い人で課題に成功した場合、その原因を自分の能力の高さや努力に帰属しやすい。達成動機が高い人で課題に失敗した場合は、努力不足に帰属する。達成動機が低い人で課題に成功した場合、課題の容易さや運のよさに帰属しやすい。達成動機が低い人で課題に失敗した場合は、能力不足に帰属する。
セリグマン(Seligman, M. E. P.)は、内在性の次元(自分のせいとするか、他のせいとするか)、全般性の次元(この状況が他のことにも波及すると考えるか、この状況のみのことと考えるか)、安定性の次元(この状況はずっと続くと考えるか、今回たまたまだったと考えるか)の3つの次元を考えた。悪い出来事が起こった時に、内的帰属(自分のせい)、全般的帰属(この悪いことが他にも起こる)、安定的帰属(この悪い状況がずっと続く)とした場合、無力感になりやすいことを指摘した。
(6)セルフ・エフィカシーとは。
自己効力期待という。自分がどれぐらいの確率でその行動ができるかという予想を指す。自己効力感という場合もあるが、これは「ある課題を効果的に解決できる自信」をいう(ドライデンら, 1996, p31)。